?リンパ浮腫を理解するために


リンパ管・リンパ節の構造と働き

浸透圧の理解

リンパ浮腫の理解

リンパ管の走行

リンパ誘導マッサージ

リンパ浮腫に対する外科的治療


リンパ浮腫の理解

1.四肢リンパ浮腫の仕組み

動脈からきれいな血液が流れてきて毛細血管に至り、ここで血液成分の一部の水分と蛋白成分(で代表される物質)は毛細血管の外に出て、組織中の細胞に取り込まれます。組織で使われた水分はそのまま静脈に戻りますが、蛋白成分は静脈に戻ることができず、リンパ管に入ってリンパ流となり、各々の経路を経て静脈へ還流します。このリンパ管内の液をリンパ液といい、蛋白や脂肪を多く含んでいますが、赤血球は含まず無色〜淡いクリーム色をしています。

 例えてみれば、この動きは給水管(動脈)から送られてきた水分と蛋白が、使われた後にそれぞれが静脈とリンパ管という2系統の排水管によって排除されているわけです。そして、リンパ管という排水管が何らかの原因で詰まってしまったのがリンパ浮腫です。
 排水管が詰まってしまったためにリンパ管に入れなかった蛋白は、血管外の皮下組織(組織間隙‐そしきかんげき‐)によどんでしまうことになり、組織間隙中の蛋白濃度は徐々に高くなってきます。

 しかし、組織間隙に蛋白が多くなっただけでは、脚や腕はむくんではきません。なぜむくんでくるのかというと、蛋白が水分をひきつける性質をもっているからで、これを膠質浸透圧‐こうしつしんとうあつ‐(膠浸圧)といいます。

膠質浸透圧とは「半透膜(水は通すが物質は通さない膜)を隔てて濃い液と薄い液があった時、濃い液の方に水分が引っ張られて同じ濃さになろうとする力」と定義される。
 これを人間の体に当てはめると毛細血管壁という半透膜を隔てて血中の蛋白濃度は高く、皮下組織間隙の蛋白濃度は低く、そのため通常水分は血管内に引きつけられ、とどまるように
働いています。
 しかし、リンパ浮腫のようにリンパ管の本管が詰まると、組織間隙中の蛋白濃度が増加し、血管内に水分を引きつける力はその分だけ弱くなってしまいます。
 また、組織間隙中の増加した蛋白はある一定量の水分を引きつけるため、組織間隙中の水分が増えます。

    

2.リンパ浮腫とは

 全身に張り巡らされたリンパ管を流れるリンパ液が、なんらかの原因で流れが滞り四肢に溜まった状態です。
 リンパ管は、全身の末梢組織に網の目状に広がる毛細リンパ管に始まり、小リンパ管、集合リンパ管、リンパ節を経て静脈へ戻ります。子宮癌や乳癌の手術では、リンパ節を切除したり、放射線治療をして癌の転移を防ぐ必要がありますが、これはリンパ節を損傷するため、おのずと手や脚のリンパ液はリンパ節以外の細いリンパ管を通って静脈に向かうこととなります。
 リンパ管の発達には個人差があり、リンパ管を手術で失ってもリンパ浮腫にならない人も中にはいます。また、癌の手術後すぐに発症する人もいれば、5年後、10年後に症状が突然現れることもあります。また、原発性の場合にも、生後すぐから浮腫がみられていたり、高齢になってからむくむ場合がありますが、これもリンパ管の発達が問題となっており、また、リンパ液が作られる量のバランスが問題となってきます。
 リンパ浮腫は症状を放置しておいても自然に治ることがない病気です。悪化して急性リンパ管炎をおこすと、組織の網の目上の線維がこわれてしまい、元に戻らなくなってしまうことがあります。

【急性リンパ管炎】
むくみのある部分が赤く熱をもち、39〜40度の高熱がみられ、痛みを伴います。原因は、細菌感染による場合が多く、リンパ浮腫では組織間にタンパク質や水分が過剰に溜まって循環が悪くなっています。身体の自然な機能で細菌を排出できなくなっているので、少し細菌が入っただけで一気に全体に広がってしまいます。炎症がきっかけで浮腫が悪化することが多いため、その予防に十分な注意が必要です。また、症状が現れたときは、熱をもった患部を冷やして安静にし、すぐに医師に診てもらい、抗生剤を投与する必要があります。

◆上肢リンパ浮腫とは?

 名前の通り、上肢(腕)に現れるリンパ浮腫のことです。原発性のものは稀で、主に乳癌術後の方に多く発症します。乳癌の手術では通常、乳房や乳腺だけでなく腋の下にある「リンパ節」を取り除きます(腋窩リンパ節郭清術といいます)。リンパ液は分水嶺という、皮膚におけるそれぞれ異なった排液部分の境界によってそのリンパ液を受け持つリンパ節に流れていきますが、手術によってこのリンパ節が取り除かれてしまうことでその受け持ち部分の排液がうまくいかなくなってしまうことがあります。そうした場合に生じてくるのが、「上肢リンパ浮腫」といわれるものです。

◆下肢リンパ浮腫とは?

 下肢(脚)に現れるリンパ浮腫のことです。上肢リンパ浮腫と同じように子宮癌術後の方に多いのですが、こちらは原発性のものもみられます。術後であっても原発性であっても、基本的には片脚に発症することが多いといわれています。


3.リンパ浮腫を理解するために

 リンパ浮腫という疾患は、一旦発症すると完治することはほとんどなく、一生つきあう必要があるという厄介な病気です。しかも、診療し治療するはずの医師の側にこの疾患の知識や治療に対する情報が少なく、リンパ浮腫という診断をつけたとしても、「治らないから仕方ない」とか「手術した癌は治っているから命には別状ない」といった説明だけで、発症した直後から日常生活の注意点や十分な治療法を聞いている場合は少なく、手術前にリンパ浮腫を発症する可能性を十分説明されたという患者さんも少数です。また、専門に治療している医療施設に紹介される事も非常に少ないという現在の医療から取り残された特殊な面をもっています。
 リンパ浮腫は、子宮癌や乳癌といった女性特有の癌の手術後に発症する「続発性」が約8割を占め、また、発病する原因の明らかでない「原発性」も女性が多いため、女性患者がリンパ浮腫全体の9割以上と圧倒的に多いのが特徴です。その女性の外見に関わる重大な疾患であるため、肉体的な苦痛以上に精神的な苦痛は非常に強いものがあります。
 リンパ浮腫は、先にも述べたように現在の治療方法では完治することは望めないのが現実ですが、そのつきあい方さえ十分に理解して実践することにより、硬くて太い患肢が少しでも柔らかく細くなり、今より日常生活動作を改善させることが可能となります。また、できるだけ発症早期から治療を行うことが悪化を防ぎ、生活の質の向上にもつながります。