リンパ浮腫を理解するためにその1:リンパ浮腫・血管外科
リンパ浮腫をより理解して頂くための解説ページその1です。以下の項目をクリックするとこのページ内でジャンプします。
▼リンパ管・リンパ節の構造と働き ▼浸透圧の理解 ▼リンパ浮腫の理解
全身の循環の仕組み
循環器系は、血液の循環する心臓と血管系からなる血液系と、リンパが毛細リンパ管から静脈に流れ込むリンパ管系とリンパ節からなるリンパ系とに分かれます。 血液系では、心臓がポンプの役割を果たし、血液が動脈を通じて全身に送られ、静脈を通って心臓まで戻ります。 リンパ系は毛細リンパ管網という細い管から始まります。これはリンパ管、リンパ節につながり、胸管という太いリンパ管に合流して首の下方の静脈に開いています。 リンパは脂肪を吸収する小腸をはじめとして全身の臓器、組織のすきまにあって、ゆっくり流れている無色のたんぱく質とリンパ球に富む液体です。また、リンパ節は濾過器の役目をし、リンパ系の中に入った細菌やガン細胞・異物は、リンパ節にとらえられます。リンパ節はしばしば細菌とのたたかいのために炎症を起こしますが、それはこのようにしてからだのあちこちで炎症が起こることを防いでいるからなのです。 このように、リンパ系は血液の循環と異なり求心路のみから成り立ち、中をリンパ液が流れ最終的に静脈に合流し血管系に合流します。
リンパ管とリンパ節の構造
リンパ管に流れるリンパってなに?
- 血液液性成分の一部は動脈性毛細管から滲出し組織の細胞間隙に入る。
- この滲出液に組織の新陳代謝産物が加わって組織液を形成する。
- この組織液の多くは再び静脈性毛細管を経て静脈に送られる。
- 一部は毛細リンパ管に入りリンパ管に送られ最後は静脈に入る。
- この脈管系をリンパ系といい、その中を流れる液をリンパ(Lymph)という。
リンパ管の種類
- 静脈と同じく浅・深の2種がある。
- 浅リンパ管は多数あり皮下静脈と同じ方向に走る。
- 深リンパ管は多くは血管に伴走し、分枝・結合・網状をなし血管をとりまく。
- 浅・深リンパ管には結合がある。
- 全身の浅・深リンパ管は最後に左右の2管に合する。
- 身体下半からのリンパは腸リンパ本幹と左右の腰リンパ本幹の3幹に集まる。この3幹は第二腰椎レベルの大動脈右で乳ビ槽を作り、ついで胸管を上行して左静脈角に開口する。
- 上肢のリンパ管のうち浅リンパ管は皮下リンパ管網より前腕・上腕に至り伸側のものは屈側に集まり腋窩リンパ節に入る。深リンパ管は血管に沿って上行し、腋窩リンパ節に入る。
心臓血管系とリンパ管静脈系
皮下リンパ系の構造
体液・血液成分
【体液】生体を構成する液体成分
体重の60%を占める。臓器の70−80%(例外:骨30%、脂肪組織10%)
【体液区分】
細胞内液(ICF、intracelluar fluid)
細胞外液(ECF、extracelluar fluid)
├組織液(管外細胞外液)・・・リンパ等
└血漿(管内細胞外液)
組織液量=ECF(細胞外液)−血漿量
浸透圧を理解するために
浸透圧を理解することは生理学理解の基礎です。
- 濃度の異なった2種類の液体を隣り合わせに置くと、お互いに同じ濃度になろうとする。この同じ濃度になろうとする力を浸透圧という。
- 浸透圧の強さは水中に存在する粒子の数に比例する・・・粒子にはブドウ糖のような分子もあればNaやKのようなイオンもある。
- 小さな粒子だけが通れる程度の小さな穴のあいた膜を半透膜という。半透膜は蛋白質以外のものを通す膜である。水.NaCl.ブドウ糖などは粒子が小さいので半透膜を自由に通過できる。 蛋白質だけがずば抜けて粒子が大きいので,半透膜を通過できない。
- 細胞膜は半透膜であり、細胞内液と細胞外液とは細胞膜という半透膜を隔てて存在している。
- 血管壁も半透膜であり、血液と細胞外液は血管壁という半透膜を隔てて存在している。
血漿浸透圧と膠質浸透圧
- ポイント
血漿浸透圧は電解質、膠質浸透圧はアルブミンによって維持されている。
血漿の浸透圧は約290mOsmで、その大部分が血漿中に溶解している電解質によって維持されている。ちなみに0.9%食塩水の浸透圧がこれに相当する(=生理的食塩水)。 - 血漿蛋白質は分子量が大きいため半透膜を通過できず、血漿浸透圧の一部を担っている。
血漿蛋白質による浸透圧(水を血管内に保とうとする力)を膠質浸透圧といい、約28mmHgである。これに対し組織の膠質浸透圧は23mmHg程度である。
血漿蛋白質にはアルブミンとグロブリンがあり、グロブリンよりもアルブミンの分子数がはるかに多いため、膠質浸透圧はアルブミンの濃度によって上下する。 - 輸液製剤の成分 (mEq/l)
Na+ K+ Ca2+ Cl-
生理食塩水 154 154
リンゲル液 147 4 4.5 155.5
アルブミン
- アルブミンは血漿中と組織間液中に存在し、お互いに交換しながら平衡を保っている。
- 血漿中アルブミン濃度:3.5〜5.5g/dl
組織間液中アルブミン濃度: 約1.5g/dl - 特徴: 合成量=分解量(約6〜12g/day)
- 減期 14〜20日(肝硬変などでアルブミン合成能が低下しているときに延長する。)
- アルブミン1gあたり約17〜20mlの水をひっぱる。
- 成分比はアルブミン55%グロブリン38%フィブリノーゲン7%
浸透圧はアルブミン>グロブリン、フィブリノーゲン - 血中アルブミン値の低下→血漿膠質浸透圧低下→血漿中の水が組織間へ移る→浮腫
- 血中アルブミン値の上昇→血漿膠質浸透圧上昇→組織間の水が血漿中へ移る→血漿量増加
浸透圧が生じる仕組み
この仕組みをリンパ浮腫に当てはめると・・・
これが弾性ストッキングの仕組み?
浸透圧が生じる原因
毛細血管領域での物質移動における血圧と膠質浸透圧の役割
スターリングの原理に基づいた浮腫の説明
膠質浸透圧のまとめ
四肢リンパ浮腫の仕組み
動脈からきれいな血液が流れてきて毛細血管に至り、ここで血液成分の一部の水分と蛋白成分(で代表される物質)は毛細血管の外に出て、組織中の細胞に取り込まれます。組織で使われた水分はそのまま静脈に戻りますが、蛋白成分は静脈に戻ることができず、リンパ管に入ってリンパ流となり、各々の経路を経て静脈へ還流します。このリンパ管内の液をリンパ液といい、蛋白や脂肪を多く含んでいますが、赤血球は含まず無色〜淡いクリーム色をしています。
例えてみれば、この動きは給水管(動脈)から送られてきた水分と蛋白が、使われた後にそれぞれが静脈とリンパ管という2系統の排水管によって排除されているわけです。そして、リンパ管という排水管が何らかの原因で詰まってしまったのがリンパ浮腫です。 排水管が詰まってしまったためにリンパ管に入れなかった蛋白は、血管外の皮下組織(組織間隙‐そしきかんげき‐)によどんでしまうことになり、組織間隙中の蛋白濃度は徐々に高くなってきます。
しかし、組織間隙に蛋白が多くなっただけでは、脚や腕はむくんではきません。なぜむくんでくるのかというと、蛋白が水分をひきつける性質をもっているからで、これを膠質浸透圧‐こうしつしんとうあつ‐(膠浸圧)といいます。
膠質浸透圧とは「半透膜(水は通すが物質は通さない膜)を隔てて濃い液と薄い液があった時、濃い液の方に水分が引っ張られて同じ濃さになろうとする力」と定義される。 これを人間の体に当てはめると毛細血管壁という半透膜を隔てて血中の蛋白濃度は高く、皮下組織間隙の蛋白濃度は低く、そのため通常水分は血管内に引きつけられ、とどまるように 働いています。 しかし、リンパ浮腫のようにリンパ管の本管が詰まると、組織間隙中の蛋白濃度が増加し、血管内に水分を引きつける力はその分だけ弱くなってしまいます。 また、組織間隙中の増加した蛋白はある一定量の水分を引きつけるため、組織間隙中の水分が増えます。
リンパ浮腫とは
全身に張り巡らされたリンパ管を流れるリンパ液が、なんらかの原因で流れが滞り四肢に溜まった状態です。 リンパ管は、全身の末梢組織に網の目状に広がる毛細リンパ管に始まり、小リンパ管、集合リンパ管、リンパ節を経て静脈へ戻ります。子宮癌や乳癌の手術では、リンパ節を切除したり、放射線治療をして癌の転移を防ぐ必要がありますが、これはリンパ節を損傷するため、おのずと手や脚のリンパ液はリンパ節以外の細いリンパ管を通って静脈に向かうこととなります。
リンパ管の発達には個人差があり、リンパ管を手術で失ってもリンパ浮腫にならない人も中にはいます。また、癌の手術後すぐに発症する人もいれば、5年後、10年後に症状が突然現れることもあります。また、原発性の場合にも、生後すぐから浮腫がみられていたり、高齢になってからむくむ場合がありますが、これもリンパ管の発達が問題となっており、また、リンパ液が作られる量のバランスが問題となってきます。 リンパ浮腫は症状を放置しておいても自然に治ることがない病気です。悪化して急性リンパ管炎をおこすと、組織の網の目上の線維がこわれてしまい、元に戻らなくなってしまうことがあります。
【急性リンパ管炎】
むくみのある部分が赤く熱をもち、39〜40度の高熱がみられ、痛みを伴います。原因は、細菌感染による場合が多く、リンパ浮腫では組織間にタンパク質や水分が過剰に溜まって循環が悪くなっています。身体の自然な機能で細菌を排出できなくなっているので、少し細菌が入っただけで一気に全体に広がってしまいます。炎症がきっかけで浮腫が悪化することが多いため、その予防に十分な注意が必要です。また、症状が現れたときは、熱をもった患部を冷やして安静にし、すぐに医師に診てもらい、抗生剤を投与する必要があります。
上肢リンパ浮腫とは?
名前の通り、上肢(腕)に現れるリンパ浮腫のことです。原発性のものは稀で、主に乳癌術後の方に多く発症します。乳癌の手術では通常、乳房や乳腺だけでなく腋の下にある「リンパ節」を取り除きます(腋窩リンパ節郭清術といいます)。リンパ液は分水嶺という、皮膚におけるそれぞれ異なった排液部分の境界によってそのリンパ液を受け持つリンパ節に流れていきますが、手術によってこのリンパ節が取り除かれてしまうことでその受け持ち部分の排液がうまくいかなくなってしまうことがあります。そうした場合に生じてくるのが、「上肢リンパ浮腫」といわれるものです。
下肢リンパ浮腫とは?
下肢(脚)に現れるリンパ浮腫のことです。上肢リンパ浮腫と同じように子宮癌術後の方に多いのですが、こちらは原発性のものもみられます。術後であっても原発性であっても、基本的には片脚に発症することが多いといわれています。
リンパ浮腫を理解するために
リンパ浮腫という疾患は、一旦発症すると完治することはほとんどなく、一生つきあう必要があるという厄介な病気です。しかも、診療し治療するはずの医師の側にこの疾患の知識や治療に対する情報が少なく、リンパ浮腫という診断をつけたとしても、「治らないから仕方ない」とか「手術した癌は治っているから命には別状ない」といった説明だけで、発症した直後から日常生活の注意点や十分な治療法を聞いている場合は少なく、手術前にリンパ浮腫を発症する可能性を十分説明されたという患者さんも少数です。また、専門に治療している医療施設に紹介される事も非常に少ないという現在の医療から取り残された特殊な面をもっています。 リンパ浮腫は、子宮癌や乳癌といった女性特有の癌の手術後に発症する「続発性」が約8割を占め、また、発病する原因の明らかでない「原発性」も女性が多いため、女性患者がリンパ浮腫全体の9割以上と圧倒的に多いのが特徴です。その女性の外見に関わる重大な疾患であるため、肉体的な苦痛以上に精神的な苦痛は非常に強いものがあります。 リンパ浮腫は、先にも述べたように現在の治療方法では完治することは望めないのが現実ですが、そのつきあい方さえ十分に理解して実践することにより、硬くて太い患肢が少しでも柔らかく細くなり、今より日常生活動作を改善させることが可能となります。また、できるだけ発症早期から治療を行うことが悪化を防ぎ、生活の質の向上にもつながります。