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特発性正常圧水頭症
(idiopathic normal pressure hydrocephalus,iNPH)

超高齢社会に突入した日本において、認知症患者の増加や介護の負担が社会的な問題となってきました。当院では、認知機能障害や歩行障害を呈する疾患であり外科的治療で改善の見込める特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus,iNPH)の診療にも注力しております。iNPHの治療は、患者様ご自身のuseful lifeの観点からも、またご家族の介護を軽減するためにも、今後ますます重要になると考えています。

特発性正常圧水頭症とは?

特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus,iNPH)はくも膜下出血などの先行疾患なしに脳脊髄液貯留による脳室拡大を来たすことによって、歩行障害・認知機能障害・尿失禁を来たす高齢者に特有の症候群で、髄液シャント術によって症状の改善が期待できます。「治療可能な認知症」としてメディアなどでも注目されています。

症状

歩行障害(出現頻度90%〜100%)
歩幅の減少(小股でよちよち)、足の挙上低下(摺り足)、歩隔の開大(両足が開きぎみ)が三大特徴です。このため歩行はゆっくりで、不安定となり、転倒しやすくなります。最も高率に出現します。
特発性正常圧水頭症
認知機能障害(出現頻度70%〜90%)
集中力、意欲、自発性の低下、反応速度の低下があります。趣味などをしなくなり、1日中ボーっとしています。
尿失禁(出現頻度60%〜80%)
トイレが近くなり、我慢できる時間が短くなります。歩行障害のためにトイレまで間に合わずに失禁してしまうこともあります。
特発性正常圧水頭症

頻度

「治療可能な認知症」として注目はされているものの、iNPHはさほど頻度の高い疾患とは認識されていませんでした。平成16年度に診療ガイドラインが作成され、有病率をみた大規模な試験も行われるようになってきました。iNPHの有病率は、高齢者(65歳以上)のおおよそ1.1%におよぶと発表されました。(最近の研究ではおよそ2.3%におよぶ)これはアルツハイマー病の4%と、パーキンソン病の0.4%〜0.7%に間に位置し、パーキンソン病よりも随分多いことになり、一般的に持たれている印象よりもかなり多い有病率であると考えられます。これは認知症状を呈する疾患の約10%程度にあたります。しかし、私たちが病院で経験する患者さんの数はどうであるかというと、ある病院のもの忘れ外来に受診した患者さんの3.5%がiNPHだったという報告があります。また、受診した患者さんの約半数がアルツハイマー病でiNPHは1.5%であったとする報告も他にあります。このように高齢人口の中の有病率と病院受診者の割合との間でこのような違いがあるということは、病院にかからない潜在的なiNPH患者さんが相当数おられ、これまでの印象よりもiNPH患者数は「案外多い」かもしれないことを意味しています。また、今後、高齢化に伴って、iNPH患者数は更に増えていくことが予想されます。手術によって機能回復が期待できることを考えると、iNPHにより認知症になっている方の介護負担軽減が期待できます。私たちは潜在的なiNPHを見逃さないように、診断に注意しなければならないと感じています。

診断

iNPHの診断は、臨床症状とMRIやCTなどの脳画像検査によって行われます。水頭症といえば脳室拡大があればよいと考えてしまいますが、他の所見を捉える必要があります。CT画像では、シルビウス裂の開大が顕著で脳室拡大はさほど大きくないように見受けられます。このようなCTでは単に脳萎縮あるいはアルツハイマー病と診断されることも少なくないと思われます。しかし、より高位のスライスに目を移せば、高位円蓋部脳溝が不明瞭で、単なる脳萎縮ではなさそうです。脳萎縮であれば円蓋部も例外なく委縮が見られるはずだからです。水頭症というと脳室の拡大という印象が強く、シルビウス裂や脳底部髄液空の拡大という印象が薄いために、特に水平断のみで診断を行う場合には注意が必要です。

iNPHの水平断CT

特発性正常圧水頭症

iNPHの冠状断MRI(左)アルツハイマー病の冠状断(右)

特発性正常圧水頭症

iNPHの特徴的な画像所見は、脳室の拡大、シルビウス列の開大、高位円蓋部及び正中部の脳溝・くも膜下腔の狭小化が挙げられ、これらの所見はMRI冠状断が最も適していると言えるでしょう。 iNPHに多く見られるこのような特徴をDESH(disipropotionately enlarged subarachoid-space hydrocephalus)と言います。頭頂部の脳溝と脳室拡大の程度が相関していない、くも膜下腔のアンバランスがあるというものです。MRIや最近の高性能のCTでは冠状断撮影ができます。iNPHを疑う症例に出会ったら、できるだけ冠状断撮影を行って診断するのが望ましいと思われます。水平断画像しか入手できない場合には、高位円蓋部の脳溝に注意して診断をする必要があります。これまでに述べた特徴の他にも、円蓋部脳溝の局所的な拡大、脳梁角の鋭角化などがあります。また、腰椎穿刺で髄液を30mlほど抜き取り、症状の改善をみるCSF tap test(髄液排出試験)があります。これは手術効果予測に有用で、歩行障害に改善が見られるとされていますが、一方この検査で症状の改善が得られなくても髄液シャント術で症状の改善が得られる例が少なからずあるようです。

治療方法

iNPHの治療は、髄液シャント術を行います。脳室や腰椎くも膜下腔にチューブをいれ皮下を通し、腹部に埋め込む手術(V-Pシャント・L-Pシャントなど)です。手術は比較的安全簡単で30分から1時間という短時間で済みます。シャントバルブには髄液の流量を制御する機能があります。また、髄液の流量は手術後に調整が可能です。シャント手術による症の改善は、症状別に歩行障害が約90%、認知機能障害が約70%、尿失禁が約70%です。

髄液シャント手術 術後フォロー

特発性正常圧水頭症
術後に、歩行が改善され活動性は高くなりますが、下肢の筋力は低下していますので安定した歩行状態になるにはリハビリは重要です。リハビリが不十分な場合はかえって転倒の危険性が高まることがあります。また、シャントバルブは髄液圧で流量をコントロールしているため、太ってしまうことによる腹圧の上昇や便秘には注意が必要です。腹圧が上がると髄液の流れが鈍くなってしまいます。

 iNPHは高齢者疾患ですので、他の認知症との併存例も多いように感じています。たとえ併存例であっても髄液tap testを行い、手術後の効果を判断し、患者さんご本人やご家族からの要望があれば手術をする意義は高いと感じております。また、他の認知症が併存している場合、髄液シャント術を行っても認知症薬などの投薬治療は継続しなければなりません。術後フォローのリハビリ・投薬治療の診療先に関しては連携先の先生方の御意向に沿って治療していきたいと考えております。

おわりに

手術により歩行障害・認知機能障害・尿失禁の3症状が改善し、患者さんご本人の自立が高まれば、介護負担も軽減され、患者様およびご家族のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)の向上が可能となります。

また、iNPHは認知症の原因疾患のひとつとして扱われるが多く、神経内科や精神科領域の疾患と捉えられがちですが、初期症状は歩行障害から現れる特徴から考えると、初診ではかかりつけ医や整形外科、リハビリテーション科などを受診されることも多いように思われます。少しでもiNPHが疑われる方がいらっしゃいましたら是非、ご紹介いただきたく申し上げます。

その他、気になることがございましたら、お気軽にご相談ください。

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